天幻才知

会社の掃除当番という時代遅れの慣習

年収500万円のエンジニアが、時給1000円の清掃作業に従事している。これが日本企業の掃除当番制度の現実だ。経済合理性を完全に無視したこの慣習は、なぜ今でも続いているのか。

──── 時間価値の計算ができない組織

時給換算で2500円の人材が、時給1000円の作業をする。この差額1500円×作業時間が、組織の純損失になっている。

月1回、30分の掃除当番があるとすれば、年間で750円×12ヶ月=9000円の機会損失。100人の組織なら年間90万円の無駄だ。

この計算ができない、あるいは意図的に無視している組織は、他の分野でも同様の非効率を生み出している可能性が高い。

──── 「みんなで使うからみんなで掃除」の欺瞞

「共有スペースだから共同で管理すべき」という理屈は一見正しく聞こえる。しかし、これは分業と専門化を否定する原始的な発想だ。

同じ論理なら、会社の経理処理も「みんなのお金だからみんなで」やるべきだろうか。法務処理も「みんなの会社だからみんなで」やるべきだろうか。

なぜ清掃業務だけが例外扱いされるのか。合理的説明は不可能だ。

──── 平等主義という名の思考停止

「役職に関係なく平等に」という美名の下、CEO も新入社員も同じ掃除をする会社がある。

これは平等ではなく、価値創造能力の無視だ。1時間で1万円の価値を生み出せる人と、1000円の価値しか生み出せない人を同じ作業に従事させることは、社会全体の富の減少を意味する。

真の平等とは、各人の能力を最大限活用できる環境を提供することだ。

──── 連帯感という錯覚

「掃除を一緒にやることでチームワークが生まれる」という主張もよく聞く。

しかし、強制的な共同作業で生まれるのは表面的な協調性であって、真の連帯感ではない。むしろ、非合理的なルールへの共通した不満が生まれることの方が多い。

本当のチームワークは、各人の専門性を尊重し、相互補完的な関係を築くことで生まれる。

──── 教育的効果という建前

「新人教育の一環」「謙虚さを学ぶ」といった教育的理由付けもある。

しかし、プロフェッショナルとして雇用された人材に必要なのは、専門スキルの向上と業務に対する深い理解だ。掃除から学べる教訓は、別の方法でより効率的に習得できる。

時代錯誤の精神論を、教育という名目で正当化するのは欺瞞だ。

──── 清掃業界への侮辱

掃除当番制度は、清掃という専門職に対する根深い軽視を表している。

「誰でもできる簡単な作業」という認識が前提にあるが、これは大きな誤解だ。効率的で衛生的な清掃には、専門的な知識と技術が必要だ。

素人による清掃は時間がかかり、品質も低い。結果として、専門業者に依頼するよりもコストが高くつく場合も多い。

──── 法的リスクの見落とし

従業員に雇用契約書に明記されていない清掃業務を強制することは、労働契約法上のグレーゾーンだ。

特に、専門職として雇用された人材に対して、職務と無関係な作業を義務付けることは、契約違反の可能性もある。

労働審判や訴訟リスクを考慮すれば、制度維持のコストは想像以上に高い。

──── 海外企業との競争力格差

グローバル企業で掃除当番制度を採用している例は皆無だ。

日本企業が国際競争で劣勢に立たされている要因の一つは、このような非効率的慣習の積み重ねにある。

一つ一つは小さな問題でも、組織全体では膨大な機会損失となって競争力を削いでいる。

──── デジタル化時代の逆行

AIやロボット技術が発達し、清掃業務の自動化も進んでいる時代に、人力による非効率的清掃を維持することは時代に逆行している。

投資すべきは、従業員の掃除スキルではなく、業務の自動化とデジタル化だ。

──── 個人レベルでの対処法

組織の変革を待てない場合、個人レベルでできることもある。

掃除当番の時間を短縮する効率化の提案、清掃業者導入のコスト試算と提案、制度の見直しを求める建設的な意見提出。

ただし、組織文化に正面から対立するリスクも考慮が必要だ。

──── 代替案の提示

批判だけでは建設的ではない。具体的な代替案も必要だ。

清掃業者への委託、清掃ロボットの導入、従業員による清掃維持費の負担、輪番制の廃止と希望者制への移行。

いずれも現在の制度より経済合理性が高い。

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掃除当番制度は、日本企業の生産性向上を阻む象徴的問題だ。

個人の時間価値を軽視し、専門性を無視し、経済合理性を欠いた慣習を「伝統」として維持することは、組織の競争力を確実に削いでいる。

真の効率化は、こうした小さな非合理の積み重ねを一つずつ解消することから始まる。時間は有限であり、その使い方が組織の未来を決定する。

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※この記事は一般的な企業慣習に対する構造分析であり、特定の企業や個人を批判する意図はありません。

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