天幻才知

日本の食品添加物規制の甘さ

日本の食品添加物規制は、先進国として恥ずかしいレベルで甘い。欧米で禁止されている物質が、日本では当たり前のように食品に混入されている。これは単なる規制の遅れではなく、構造的な問題だ。

──── 数字で見る規制の甘さ

日本で使用が認められている食品添加物は約1,500種類。一方、ドイツは約320種類、フランスは約290種類、イギリスは約270種類だ。

この差は「日本が多様性を重視しているから」ではない。安全性の審査基準が根本的に異なるからだ。

欧米では「安全であることが証明されるまで使用禁止」が原則だが、日本では「危険であることが明確に証明されるまで使用許可」が実質的な運用方針になっている。

──── 禁止されている添加物の例

具体例を挙げよう。

タール系色素:アメリカでは一部が禁止、EUでは厳格な使用制限があるが、日本では広範囲に使用が認められている。発がん性や注意欠陥多動性障害(ADHD)との関連が指摘されているにも関わらず。

アスパルテーム:EUでは妊婦への警告表示が義務付けられ、一部の国では使用制限があるが、日本では何の制限もない。

BHT(ブチル化ヒドロキシトルエン):欧州では乳幼児向け食品への使用が禁止されているが、日本では制限なし。

亜硝酸ナトリウム:多くの国で使用量に厳格な制限があるが、日本の基準は緩い。発がん性物質であるニトロソアミンの生成リスクが指摘されている。

──── 審査体制の構造的欠陥

日本の食品添加物審査には根本的な問題がある。

企業寄りの審査委員:食品安全委員会の委員に、食品業界と利害関係のある研究者が含まれることが多い。これは明らかな利益相反だが、問題視されていない。

データの透明性の欠如:審査に使用された安全性データの多くが非公開。企業が提出したデータをそのまま採用することも珍しくない。

追跡調査の不備:一度認可された添加物の継続的な安全性監視が不十分。新たな研究で問題が指摘されても、規制見直しが遅い。

──── 「国際基準」という詭弁

行政は「国際基準に準拠している」と説明することが多い。しかし、これは事実の歪曲だ。

日本が参照する「国際基準」は、主にコーデックス委員会(Codex)の基準だが、これは最低限の国際的合意に過ぎない。

多くの先進国は、コーデックス基準をベースラインとして、より厳格な自国基準を設定している。日本はベースラインをそのまま採用することが多い。

「国際基準準拠」は「国際的最低水準」という意味であることが多い。

──── 業界圧力の実態

食品業界からの圧力は、想像以上に強い。

コスト削減圧力:天然由来の代替品は合成添加物より高価。規制強化は直接的なコスト増に直結する。

技術的依存:日本の食品製造業は、大量生産・長期保存を前提とした添加物依存型の製造システムが確立されている。規制強化は製造プロセスの根本的変更を迫る。

ロビー活動:業界団体による組織的なロビー活動が行われている。元厚労省官僚の天下り先も、関連業界に多い。

──── 消費者の無関心

しかし、最大の問題は消費者の無関心かもしれない。

表示の軽視:原材料表示を確認する消費者は少ない。「無添加」表示に関心を示す人も、具体的にどの添加物が問題なのかを知らない人が多い。

価格優先:安全性よりも価格を優先する消費行動。添加物を使用しない商品は高価になるため、市場で敬遠される。

情報不足:メディアも食品添加物の問題を積極的に取り上げない。スポンサーの食品企業への配慮があるからだ。

──── 他国との比較

フランス:2018年に二酸化チタン(着色料)の使用を禁止。日本では現在も使用可能。

デンマーク:トランス脂肪酸を世界で初めて法的に禁止。日本では規制なし。

ノルウェー:人工甘味料の使用に厳格な制限。妊婦・授乳中の女性への注意喚起を義務化。

これらの国々は、科学的エビデンスに基づいて予防原則を適用している。

──── 健康への影響

食品添加物の健康影響は、すぐには現れない。それが問題を複雑にしている。

長期的影響:発がん性、内分泌撹乱作用、神経系への影響など、長期間の蓄積で現れる問題は、因果関係の証明が困難。

複合影響:複数の添加物が体内で相互作用する場合の安全性は、ほとんど研究されていない。

個体差:同じ添加物でも、人によって感受性が大きく異なる。特に子供への影響は深刻。

──── 改善への道筋

状況改善には、複数のアプローチが必要だ。

規制の厳格化:予防原則に基づく審査基準への転換。欧米並みの厳格な規制の導入。

透明性の確保:審査データの全面公開。利益相反のない審査体制の確立。

消費者教育:食品添加物に関する正確な情報提供。学校教育での食品安全教育の充実。

企業責任:添加物使用の必要性についての説明責任。代替技術開発への投資義務。

──── 個人レベルでの対処

システム改革を待つ間、個人でできることもある。

表示確認:原材料表示を必ず確認する習慣をつける。

選択的消費:添加物の少ない商品を意識的に選ぶ。多少高くても、長期的健康への投資と考える。

情報収集:信頼できる情報源から、食品添加物に関する知識を得る。

声を上げる:メーカーへの問い合わせ、行政への意見提出。小さな声でも、積み重なれば変化を生む。

──── 結論:変化は可能だ

日本の食品添加物規制の甘さは、既得権益と無関心の産物だ。しかし、変化は不可能ではない。

消費者の意識変化が市場を動かし、市場の変化が規制を動かす。この順序での変革が最も現実的だ。

「安全な食品を食べる権利」は、基本的人権の一部だ。それを守るのは、最終的には私たち自身の選択と行動にかかっている。

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※本記事は公開されている情報と研究に基づいており、特定の企業や商品を批判する意図はありません。個人的見解に基づく分析です。

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